F A K E . T O P A Z
2004-12-19 [日] 七色
2005-12-19 [月] 雪国
_ [日記]ここはどこなんだ。
俺は確かに旅行へは行っていないはずだ。
いつものように自室で眠った。
そして、起き、
そして外を見た。
白かった。
娯楽を与えてくれるはずのCS放送は映らなかった。
webで見たアメダスは常に「降雨」を示していた。
yahooのトップトピックスは「大寒波襲来」を報じていた。
部屋が異常に寒かった。
俺の周囲は確実におかしくなっていた。
ふむ、
これは何が起きたか確認する必要がある。
勇気を振り絞って外へ出た。
羽織るは買ったばかりのジャケット。
買ったばかりのジーンズに…一年間履いてきたスニーカー。
手袋も忘れずに、あとは…幾らばかりか入った財布。
外は…
吹雪だった。
ここは愛知県名古屋市、
日本の中心(と、地元民は言う)で、
太平洋に面した東海県。
一体ここはどこなんだ。本当に和やか。
…ではなかった、本当に名古屋か。
大変なことになっているようだ。調査しに行かねばなるまい。
轍が深い。今日ばかりは自転車は無理か。
…と。
なんだこのアフロのようなサドルは。
ふと鍵穴を確認してみる。
鍵穴には水が流れ込み、凍結し、鍵が入らなくなっていた。
…刺客の仕業か。
そう、確かに刺客の仕業であった。
盟友MAMETA氏が毎年のように「命を狙われている」と恐れ、
慄いていた存在。
…冬将軍の仕業だった。
今年の冬将軍は手ごわいぞ。
俺は遠くの友人に念を飛ばした。
スニーカーはその全てが埋まった。
防水機能など役に立ちはしなかった。
なぜなら、靴の上からさも当然のように、
雪が入り込んでくるからだ。
俺は長靴を持っていないことを後悔した。
暖をとっているのか、
官憲の姿は見当たらなかった。
人が埋まっていた。(この人物は、のちに俺の捏造であることが判明した)。
春には花見でにぎわう公園も、今は別の顔を見せていた。
吹雪く。ひたすら吹雪く。
しかし、マンホールだけは雪が積もっていなかった。
気づけば家を出発して2時間が経過していた。
さすがに冷えてきた。
そんな俺が目指すは、暖かい食材。
肉まんが妥当なところだろう。
おでんもいい。卵、大根、厚揚げ…。
想像すると余計に寒く感じてくるから不思議だ。
サンタクロースの足元には雪ダルマがいて、俺を迎えてくれた。
「寒かったでしょう、どうぞどうぞ、いらっしゃいませ。入るだけならタダですよ。気楽にお立ち寄りください。」
店に入った俺は愕然とした。
相好を崩しかけた顔が硬直していく。
その店には肉まんも、おでんもなかった。
一般的に「ホットスナック」と呼ばれるものは一切用意されていなかった。
「これはどういうことですか」
「どういうことですかとはどういうことですか」
「なぜ暖かい食べ物がないのですか」
「なぜといわれましても、ないものはないのです」
「ないということがありえますか。外をご覧なさい」
「外は雪ですね」
「わかってるではないですか。雪の中を歩くのは大変寒いものです。
寒い時には暖かいものが必要です。それがわかっていてなぜ―――」
「なぜならば」
「なぜならば?」
「なぜならば…ここが名古屋だからです。あなたもおわかりでしょう、
このような大雪、誰が想像したでしょうか」
「それはうっかりしていました。確かにあなたの言うとおりです」
「そのかわり、私はあなたにもっとよい食べ物を紹介できますよ」
「ほう、もっとよい食べ物ですか。して、それは…」
まるで雪のような食感、「さら雪」。
俺は公園でそれらを食べ、そして帰宅した。
すぐさま着替え、早々に炬燵へともぐり込んだ。
今日はここで眠ることにしよう。
なに、
明日になれば、全てが元に戻っている。
全てが…。
そうつぶやきながら、
俺は目を閉じた。