404 not found

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404は激怒した。必ず、かの邪智暴虐のゲイツを除かなければならぬと決意した。404には政治がわからぬ。404は、APACHEの牧人である。笛を吹き、羊と遊んで暮して来た。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。きょう未明404は村を出発し、野を越え山越え、十里はなれた此のシリコンバレーの市にやって来た。404には父も、母も無い。女房も無い。十六の、内気な403と二人暮しだ。この403は、村の或る律気な200を、近々、花婿として迎える事になっていた。結婚式も間近かなのである。404は、それゆえ、花嫁の衣裳やら祝宴の御馳走やらを買いに、はるばる市にやって来たのだ。先ず、その品々を買い集め、それから都の大路をぶらぶら歩いた。404には竹馬の友があった。500である。今は此のシリコンバレーの市で、Internal Server Errorをしている。その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。久しく逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。歩いているうちに404は、まちの様子を怪しく思った。ひっそりしている。もう既に日も落ちて、まちの暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか、夜のせいばかりでは無く、市全体が、やけに寂しい。のんきな404も、だんだん不安になって来た。路で逢った202をつかまえて、何かあったのか、二年まえに此の市に来たときは、夜でも皆が歌をうたって、まちは賑やかであった筈だが、と質問した。202は、首を振って答えなかった。しばらく歩いて503に逢い、こんどはもっと、語勢を強くして質問した。503は答えなかった。404は両手で503のからだをゆすぶって質問を重ねた。503は、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。
「ゲイツ様は、会社を殺します。」
「なぜ殺すのだ。」
「悪心を抱いている、というのですが、誰もそんな、悪心を持っては居りませぬ。」
「たくさんの会社を殺したのか。」
「はい、はじめはAppleさまを。それから、御自身のXBOXを。それから、Netscapeさまを。それから、Lotusさまを。それから、Borlandさまを。それから、AOLさまを。」
「おどろいた。ゲイツ王は乱心か。」
「いいえ、乱心ではございませぬ。他社を、信ずる事が出来ぬ、というのです。このごろは、子会社の心をも、お疑いになり、少しく派手な暮しをしている者には、人質ひとりずつ差し出すことを命じて居ります。御命令を拒めば十字架にかけられて、解雇されます。きょうは、六人解雇されました。」
 聞いて、404は激怒した。「呆れた王だ。生かして置けぬ。」
 404は、単純な男であった。買い物を、背負ったままで、のそのそ王城にはいって行った。たちまち彼は、巡邏の401に捕縛された。調べられて、404の懐中からはウィルスが出て来たので、騒ぎが大きくなってしまった。404は、王の前に引き出された。
「このウィルスで何をするつもりであったか。言え!」暴君ゲイツは静かに、けれども威厳を以て問いつめた。その王の顔は蒼白で、眉間の皺は、刻み込まれたように深かった。
「市を暴君の手から救うのだ。」と404は悪びれずに答えた。
「おまえがか?」王は、憫笑た。「仕方の無いやつじゃ。おまえには、わしの孤独がわからぬ。」
「言うな!」と404は、いきり立って反駁した。「人の心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ。王は、民の忠誠をさえ疑って居られる。」
「疑うのが、正当の心構えなのだと、わしに教えてくれたのは、おまえたちだ。人の心は、あてにならない。人間は、もともと私慾のかたまりさ。信じては、ならぬ。」暴君は落着いて呟き、ほっと溜息をついた。「わしだって、平和を望んでいるのだが。」
「なんの為の平和だ。自分の地位を守る為か。」こんどは404が嘲笑した。「罪の無い会社を殺して、何が平和だ。」
「だまれ、下賤の者。」王は、さっと顔を挙げて報いた。「口では、どんな清らかな事でも言える。わしには、人の腹綿の奥底が見え透いてならぬ。おまえだって、いまに、ごみ箱に入ってから、泣いて詫びたって聞かぬぞ。」
「ああ、王は悧巧だ。自惚れているがよい。私は、ちゃんと消える覚悟で居るのに。命乞いなど決してしない。ただ、――」と言いかけて、404は足もとに視線を落し瞬時ためらい、「ただ、私に情をかけたいつもりなら、処刑までに三日間の日限を与えて下さい。たった一人の403に、亭主を持たせてやりたいのです。三日のうちに、私は村で結婚式を挙げさせ、必ず、ここへ帰って来ます。」
「ばかな。」と暴君は、嗄れた声で低く笑った。「とんでもない嘘を言うわい。クラッシュしたハードディスクが帰って来るというのか。」
「そうです。帰って来るのです。」404は必死で言い張った。「私は約束を守ります。私を、三日間だけ許して下さい。403が、私の帰りを待っているのだ。そんなに私を信じられないならば、よろしい、この市に500というInternal Server Errorがいます。私の無二の友人だ。あれを、人質としてここに置いて行こう。私が逃げてしまって、三日目の日暮まで、ここに帰って来なかったら、あの友人をDeleteして下さい。たのむ、そうして下さい。」
 それを聞いて王は、残虐な気持で、そっと北叟笑んだ。生意気なことを言うわい。どうせ帰って来ないにきまっている。この嘘つきに騙された振りして、放してやるのも面白い。そうして身代りの男を、三日目にDeleteしてやるのも気味がいい。人は、これだから信じられぬと、わしは悲しい顔して、その身代りの男をごみ箱に入れてやるのだ。世の中の、正直者とかいう奴輩にうんと見せつけてやりたいものさ。